やさしい瞳

亀の中でも、ウミガメっていうのは、とりわけ優しい瞳をしている。

えー、ログインしないと記事が書けないぐらいにはご無沙汰しておりました。
けれど受験生としてはきっと更新している場合ではなく、私は人様よりも余計に勉強せねばならないはずなので、あんまり更新が遅いのかというと早いんじゃないかという気がしなくもないです。

本日は、ちょっと時間に余裕があるので。

というのも、本日は遠足だったのです。
去年は小雨の宮島でしたが、今年は晴天の元、島根のアクアスに参りました。
アクアスは幼少の頃に何度か訪れたこともあったはずなのですが、いかんせん、人の記憶は薄れるものでして、とても楽しみでした。

行ってみたらああ、見覚えあるわ、ってのも多かったですが。

さて、今回は宮島のような班行動ではなく、ほとんど自由行動で、クラスによってはクラス行動もあったのですが、基本放任主義の私のクラスはそんなこともなく、4時間ほど自由行動でした。

当初一緒にふたりで回ろう、と言っていた子がまさかの体調不良で欠席!!
一年生の時からその子はほとんど休まなくて、私が休むは早退はするわ、保健室に行くわでしょーがないなーって言われる立場だったのでショックでした。

他の子がこっちに混ざる?とも言ってくれたけれど、それでもまあ、水族館だなんて、ひとりでゆったり回るぐらいがいいなあ、と喜ぶもつかの間。

「ひとりで回ろうと思う」とポロリとこぼしていたら、バスの隣だった女の子が気を使ってくれて、入館早々その子と、その回るメンバーに入れて貰うことに。
拉致されたというのが近いですが 笑

去年も同じクラスの人達ばっかりだったから、初対面じゃあないし、どちらかと言えば仲の良い、好きな人達だったのだけれど、回るペースは見事に合わず・・・。
いえ、合わずっていうか、私が極端にマイペースなだけなんですけど。
みんな何であんなに早いんだろうとか思いながら。
丁度息継ぎして降りてきたウミガメを前に、何分ウミガメは潜っていられるのか測ってみようか、と考えていたら先をせかされたりね。

でも親切で誘ってくれたのでひとりがいいだなんて口が裂けても言えず。

と、偶然全く同じ境遇に立たされていた別のクラスの友人に遭遇。

ふたりで回ろう、ということになって誘ってくださった方々に断って一緒に回るとペースが合ってびっくり。
それまでふたりで行動することはなかった子で、友人経由で知って、時折話して、さださんの話とか、釣瓶の家族に乾杯の話とかしてたりみたいな子だったのですが。
シロイルカよりスナメリが好きって話や、クラス状況の話まで出来るとは思っておらず。
何だか一方的にですが、一気に懐いてしまった感じ 笑

もうシロイルカの水槽前とか、神話の海っていう一番大きな水槽のとことか、ずーっと居てもいいよね、って言いながら。

現に彼女は1時からクラス行動で、ぎりぎりまで神話の海のコーナーに居て、それで出口に向かうもそこから近くのシロイルカの水槽にまた行って。
ショーは人多くて諦めたんですけど、ショーじゃない時間帯にガラガラの席の真ん中にふたりでならんで、ボール遊びしているシロイルカを眺めるのはとても素敵で。
クラス行動行きたくないなー、ずっとここに居たいなーみたいなことを 笑

その子に、ひとりになっちゃうけど、集合までの約1時間と10分ほどをどうするのかと問われて。

海が傍にあって、遊具揃った大型の公園も傍にあって、時間までなら自由で、再入場も出来るのでそっちに足を運ぶ人も多かったのだけれど。

私は神話の海の水槽のとこに居る、という話に。

本があったら野火ちゃんはずっとあそこに暮らせそうよね、と笑われて、私実は今日本あるんだよ、なんて笑いながら。
ずっとあそこに居れそう、と言ったらぼーっとして時間を過ぎないように、って言われて。
やりそうだな、って言ったら、じゃあ集合しても居なかったら先生にきっと神話の海のとこに居ますって言ってあげる、と笑って言われて別れる。

一緒に出口を出て、玄関に集合の彼女と別れてもうそのまますぐ入り口に 笑

ゆっくり観れなかったとこをちょっと観て。

シーラカンスとかの生き物の海への進出までの歴史とか、地学の先生と来たいな、って思うようなコーナーを見て10分ほど。

そしてあとは神話の海へ。

大型の水槽で、サメが6,7種類が何匹も。ジンベエザメはいないけれど。
大きなマンタが一匹。エイが2種類ほどがこれまた何匹も。
小魚は群れが一群。そして小さな種類が3,4種類。大型が3種類ぐらい。
そこに、大きなウミガメが一匹。

そんな大きな水槽で。

すみで低位置なのだろう、最初に潜水したとこと同じポジションにウミガメが居て。
その目の前に、上手く言えないけれど、台というか、腰掛というか、とにかく座れるようなところがありまして。
ウミガメの前に座って、隅っこだから全体を見上げながら見渡すように座ったらもう、立って観るのとは景色が全然違う。
本当に水の中に居るような。
水面を見上げて、覗く感じ。
ガラスの付近を泳いでくるサメや魚は、ふいに、ある角度の場所で、ガラスの反射が感じられなくなって、手を伸ばせば触れれるんじゃないかと思えてくる。

動かなくて優しい瞳を半分つぶっているウミガメのところに時々小さな魚がやってくる。

それを隣で見ながら、こんなに穏やかな目だから長生きするのかしらと思ったり。

じーっと眺めてたら色んな生き物の、ヒレとか、身体の作りとか、泳ぎ方だとかわかってくるようになって。

それでも何故か飽きなくて。

ウミガメがのそりと動いて、水面に上がっていく。
動きはスローモーションで、優雅なのに、そのゆったりした水かきが意外に力強いようで、他のサメなんかよりも早く水面に辿り着く。
息を吸って、すこしぷかぷかして、また降りてくる。

わざわざ降りて、向きを変えて、元の向きになって、ちょっとの位置の誤差も修正して、ようやく私がさっきと同じ横の距離感だ、と思った辺りでまた優しい瞳を半分にする。まどろむ。

そこから時間を測って、次息継ぎするまでに20分弱。

まどろんでいた瞳がぱちりと開いて、少しごそごそして、また上がっていく。
サメやエイは、ちょっとずつ角度を上げるけれど、ウミガメはほぼ垂直に上がってゆく。

惚れ惚れする。

アカクラゲがゆったり、ゆったり、長い触手を伸ばしてふわふわするのも感慨深かったけれど、ウミガメも、いや、水槽の中の生き物皆、負けていない。

最初の方のコーナーだから、過ぎてゆく人がちらほらだけれど、戻ってくる人も少なく。
私の高校の人は、誰ひとり居なくて。

時々お客さんが他に誰もいなくて、不思議な静けさのなかに、空調の音がBGMのようになって、不思議な角度の光に色の深みのグラデーションを持つ水の中。

そういう瞬間がこの上なくたまらなくて。

結局、約1時間・・・正式には集合時間が迫っていたので56分ほど。
ずーっと結局そこに固まっていた。

あと3分しか居られないかな、と時計を見たとき、またウミガメがそっと瞳を開けて、上に上がっていった。
息継ぎして、ちょっと浮いて。

私帰らなきゃいけないから、最後に降りてきて、と願ったら、私の方に向かって、いつもとは違う角度で降りてきてくれた。
優しい瞳と目が合った気がする・・・だなんていうのは私の希望的観測。
目の前に来て、やがて、やっぱり向きを元に戻して、私には横顔で、位置を修正して、低位置になって、まどろみ。

そのまどろみ始めた表情を観て、心の中でバイバイと呟く私はどうかしているのかな、と思わなくもなかったけれど。
とんでもなく、幸せだと思った。

サメも、エイも、マンタも、魚たちも、ああして泳いでいたらなんて優雅なんだろう、だなんて。

時間がもっとあれば良かったのに。

カメラは今日は持って行かなかった。
持ってくれば良かったとも思うけれど、目に焼き付けた。

ずっと同じ位置に同じ姿勢で居たから、肩と腰と首と背中とガチガチになったけど。

いつかは薄れてしまうものかもしれないけれど。



きれいなものに会った時、僕は見るだけにすることにしている。
そしてそれを、頭の中にしまっておくのさ。


こう言ったのはスナフキンだったけれど。

そういう風に、しまっておくものが、まさに水槽の前の約56分で。



それが世界中のものでも、僕が綺麗だと思う間は僕のものさ。



スナフキンのそんな言葉に従って言うならば、水槽の前の56分は私だけのもので、目が合ったと思った、ウミガメの、やさしい瞳のまどろむ光景は、私だけのものだ。


薄れないといいな、と思いながら、忘れないうちに。

人間は忘却する生き物だから、だから記録というすべを覚えたのだといい。


野火でした。