瞼の裏

少し落ち着いてみよう、と一晩明けて。


昨日は高校の卒業式で、毎年の如く文芸部は卒業生を囲んでワイワイやるのだろうと、参入してきた。

同じく文芸部の同級生だったNとお邪魔したのだけれど、もう1人のメンバーも駆けつけていて、私の代もがっつり参加してしまった。


私とNは卒業式には出ず、終わるぐらいの時間帯におそらく準備しているだろう部室に直行。
何も連絡せずいきなり登場したのだけれど、入るなり「先輩いいところに!手伝って下さい!」と部誌の製本作業の真っ最中に駆り出され。

卒業式に出る人が多く、人手もないまま部屋の片づけと同時進行だったようで、Nと慌てて荷物下ろして製本作業に入り、部屋を片付けて、飾り付けをして、っていう人員のお仲間に。

文化祭の茶道部もこんな感じだったなあ、と思いつつ、やっぱりそういうことに奔走するのは好きだなあ、と改めて。

そして、去年、私が卒業する年から始まった後輩からの派手なプレゼントやサプライズパーティーはこんなにも準備が大変だったのか、というのも、今更になって知った。
自分はされる側第一号だったから、知らなくて。知らなかった当時でも申し訳なかったのに、本当に幸せだったのだなあ、と。

そしてああしたい、こうしたい、って、後輩が思ってくれるのは部の居心地の良さにあるのだろうなあ、とも。


文芸部は元々ゆるめで、先輩方が優しくて、居心地の良いのんびりとした部だったけれど、もう生涯二度とないと思えるぐらいに、唯一無二の居心地の良い、自分の居場所、と思えるような部を作ったのは、今年卒業する代の後輩だったように思う。

だからこそ、絶対来たくて。
プレゼントは、その後輩達から受けた恩恵に比べれば、すごくちっぽけで。
申し訳ない、申し訳ない、と思いながらも、せめてもの抵抗に、Nと二人で選んだもの。



久々に来た文芸部でも、そして文化祭でちらりと顔を合わせた程度の一年生を見ても、少しずつ形を変えながら受け継がれているものがあるのだなあ、と。
寂しいようで、嬉しいようで。


去年、Nと二人で、後輩に向けてのつもりで合作で小説を書いた。
文芸部の部誌が『半月』の名前だったことから、少しは進歩した高校の集大成だけれど、まだまだ、という思いを込めて、1作品だけのそれを簡単に製本して、『十三夜』という誌名を勝手につけた。

そんな思い付きのような、二人の悪巧みのような作品の後書きに、この『十三夜』の2号、3号とが出るといいな、なんてちっぽけなわがままを書いた。


すると、部長の男の子が。

「編集長と二人で、『十三夜』2号、作ったんです。」


実は夏休みぐらいからやっていたらしく。部長と編集長の合作小説と、編集長の小説が一本。


製本出来なかったらしく、データであとで送って貰ったのだけれど。

文芸部の日々が詰まっていて、懐かしくて、嬉しくて、泣きそうになりながら、でもニヤニヤが止まらないような。

あんまりに嬉しくて、自分用に印刷して、簡単に製本した。


繋げてくれたこと、作ろうと思ってくれること、そんなこと全部が、嬉しかった。




時間の関係で、在校生の後輩側からも、卒業する後輩側からも、コメントは部長だけになった。

それを聞きながら、一人だけ、卒業生なのに、泣いてしまった。


去年卒業の時も勿論寂しかったのだけれど。
卒業してからもたまに来れば、そこには後輩が居て。

私の文芸部の光景っていうのは、そういう、大好きな後輩達が笑って迎えてくれる、そんな小さな部室で。

これからは、来てもそれがないんだな、って。
一つ下の後輩はもう居ないんだ、って。
文化祭なんかで来ても、みんなで顔を合わせる確率は低いんだろうな、と。
きっと、またあっという間に一年たって、もう一つ下の後輩も居なくなるんだ、って思ったら。

自分が卒業した時なんかより、よっぽど寂しかった。

それだけ、居心地の良い、優しい場所だった。


そんな体験をさせて貰えたからこそ、高校生活での後輩は、すべからく可愛い。


寂しい。


私がこういう時すぐ泣くことを、小学生の時から知っているNは、呆れながら隅でぐじぐじ言ってる私を慰めてくれて。
そして、後輩達に「年1回でも集まろうぜ。飲もうぜ。」と絡んでくれていた。


私は、そういうのが全然言えないから、こういうところ、ずっと助けられてきた。

その言葉に、いいですよ、と返してくれる後輩の面々にまた泣きそうになって、Nに「絶対してよ、じゃなきゃ私泣くから!」と意味のわからないわがままを言った。



生涯もうこれほどまでに居心地の良い居場所に出会えることはないかもしれないし、この関係がいつまで続くかなんてわからないけれど。
それでも、ずっと続いて欲しいなんて思える唯一無二の場所があったことに。その中に居られたことに、感謝して。


来年までは、絶対押しかけてやろう、だなんて、企む。



野火でした。




居心地の良い場所からの帰り道は、無性に人恋しいね、とNと二人。

ひとこいし。